1.音楽療法(2)
平成13年7月4日
久しぶりに音楽療法の見学に行きました。
毎回、細かい療法の目的とその成果のレポートを出してもらい、またビデオも見せていただいているので、大体の内容は把握しています。
また、施設(あけぼの)のスタッフの方達からも、様子などを聞かせてもらっています。
当初は手の動きを促すために打楽器を使うことが多かったのですが、最近満理子が打楽器は子供みたいだから、やだ!とクレームを出したので、キーボードの練習をすることになりました。
その様子を、見学したのでご報告します。
満理子はピアノは弾けたので、今でもできると思っているのです。 だから、楽器ならキーボードが良いと言ったのでしょう。
楽器演奏の目的は、本人の好きな楽器を演奏することで意欲促進につなげ、指先を動かそうとする信号を送るイメージを育み、タイミングを獲得するためだそうです。
評価は、指先に視線を持っていき、集中力があると、自信の動きで鍵盤を鳴らす動作が増えてきているそうです。
今までは受動的な動作が多かったが、能動的思考が得られつつあるということです。
Sさんの演奏で満理子は教えてもらったキーを押していきます。始めて見た時よりは意識的に鍵盤を押しているように見えました。
Sさんは独学でピアノやギターの演奏ができます。 すごい!
スキンヘッドのSさん(あけぼのの職員さん)の伴奏に合わせて
先生の手助けでキーボードを弾く(弾いているつもり)
次に効果音当てクイズです。 今回は鳥の声を聞いて、その種類を当てるものでした。
最初は[鶴」の声。 これは難しくて、Sさんの「何かの一声」というヒントでわかりました。
次に「とんび」です。「ピー、ヒョロロロロ」。 満理子は即座に「按摩さんの笛」と答えました。
皆さんは若いので、意味が判らないようでした。 しかし、ピーの音で按摩さんを思い浮かべるとはどういうことなんでしょうか。
当てっこする間、その音について、いろんな話を膨らませていきます。 その鳥にちなんだ子供の頃の経験とか物まねをしたり、どんどん盛り上がってきます。 先生は、子供の頃教室で空を見ていたら、とんびが蛇をくわえて飛んでいるのを見たそうです。
これによって、音に対する集中力と創造性を高め、左脳の活性化を図っています。
とにかく、本当に楽しい時間の中で訓練をできるということは、満理子にとって、訓練の効果もさることながら、良い時間を過ごせるということがうれしいのです。
ひとつの音から話が膨らんで大盛り上がり
2.音楽療法の成果
平成13年7月25日
先日、音楽療法を始めて1年弱、14回のセッションを終えて、どのような変化があったかの、総合評価を先生やスタッフの方たちから発表していただきました。
他でも書きましたが当初は大きな期待はしていなかったのですが、明らかな変化が家庭では見られました。
セッションを始めた時期が、痙攣止めの薬の量を減らしたことや(血中濃度が上がり意識レベルが下がっていた)、介護保険が施行され訪問リハビリを始めたりデイサービスの回数も増やした時期などが重なり、タイミングが非常に良かったと思います。
先生の客観的評価も同様で、しかも、家では見せない変化も聞かせていただきました。
毎日接している上で感覚的な効果は感じ取れるのですが、今回は視覚的にどの様な部分がどう変化したかを下図のようなグラフで示されて、効果がはっきり分かり納得もできました。
そのグラフの結果を踏まえて、今後の目標設定や重点項目を話し合いました。
下のグラフでわかることはD:情緒表現 とF:運動状況に顕著な変化が見られます。
C:を除いて他もかなりの効果が有りました。
総合的に見て、集中力が出て、記憶力が非常に良くなりました。C:協調性は、もともとおしゃべり好きなので最初から会話に参加しようして楽しむのことができたようです。
それらのことに伴い、セッションを皆(先生やスタッフの方たち)で楽しむことができるようになったと思います。
運動状況は直接的な目的ではなくリハビリ的評価ではありませんが、楽器演奏等に興味を覚え演奏しようとする意欲が運動能力にも影響したのでしょう。
未だに脳血管障害による痴呆症状のため判断能力に問題が有り、自分の要求を訴えることや状況判断をすることができません。
今後の課題として、E:知的機能の向上を目指し、工夫していくという目標を立てました。
今回、見せていただいたグラフは、音楽療法に際して、精神機能、身体機能、ならびに発達状況の現状を音楽的行動の側面から捉えるために作成されたチェックリストであり、診断・治療家庭を評価する目的で作成されるものです。
原則的には引っ込んでいる部分を伸ばすようにするのが目的ですが、直接的だけでなく間接的にアプローチすることも大切です。
A:積極性 1.指示されても回避的でなかなか活動しようとしない。 2.消極的であるが指示された活動はしようとする。 3.受身的なところもあるが、やり始めると積極性の芽生えが有る。 4.受身的なところもあるが、積極的意欲が発言や行動に現れる。 5.積極的に参加し、新しい課題に取り組もうとする。 |
B:持続性 1.数分で活動できなくなってしまう。 2.短時間は集中できるようになるが、活動中に途中で場を離れてしまうことがある。 3.短時間は集中できるようになり、途中で場を離れることはない。 4.決まった時間内に集中できるようになるが、時に疲れて集中しにくくなることも有る。 5.コンスタントに活動に集中する。 |
C:協調性 1.他者と交流をもとうとしない。 2.マイペースで好きな行動はするが、他者と交流することは少ない。 3.受身的であるが協調的である。 4.能動的な協調性が現れる。 5.協調的で必要であればリーダーシップもとれる。 |
D:情緒性 1.自己表現はなく、他者への共感性を全く現さない。 2.情緒表現は殆ど見られないが他者への共感性が少し見られる。 3.働きかけられれば僅かな情緒表現は見られる。 4.働きかけられれば情緒表現はよく見られる。 5.情緒豊かで、他者と共感した表現行動が可能になる。 |
E:知的機能 1.判断力に問題が有り、記憶は定かではない。所謂、痴呆症状が見られる。 2.判断力は少し問題が残る程度だが記憶力にあいまいな部分が見られる。 3.判断力に殆ど問題は見られない、記憶力は向上が見られる。 4.古い記憶は再生され、学習はある程度可能であるが維持されがたい。判断力は良い。 5.記憶力も良く、学習も可能で、判断力も良い。 |
F:運動状況 1.把握力が弱く日常生活に著しい支障が有る。 2.日常生活に何らかの支障が有り、楽器の操作は単調なものに限る。 3.把握力は見られるが、手、指の細かい動作は難しい。 4.時間はかかるが、指の細かい動作も多少できる。 5.日常生活における手の操作は円滑で、打楽器のリズムも正確に打てる。 |
3.N先生
平成13年9月25日
久しぶりに、N先生が訓練に来られた。 N先生は多忙で、研究会や指導、役所、業者などあちこち行かれています。 そのうえ、技術、知識ともすばらしいので、患者からもひっぱりだこです。
会田記念病院にはO/T,P/Tの先生方はたくさんおられるのですが、訪問専門の方は少ないのです。
新人さんは、勉強のために訪問を経験されるのですが、3ヵ月で中の仕事に戻ります。
訪問でのリハビリは、病院の訓練室と違って、いろいろ制約もあるし、一人で何もかもやらなくてはいけないので、大変だと思います。 家族の目がそばにあるのも、慣れないとやりにくいでしょう。
満理子は、N先生に訓練をしていただくようになって、見違えるようになりました。(今までのリハビリ日記を見ていただければわかる通り) 私も、訓練状況をいつもそばで見て、すごく勉強になるし、福祉用具や制度のことも教えていただき、非常に感謝しています。
というわけで、出きるだけN先生に来ていただきたいのですが、なかなかそういうわけにいかないので残念です。
やはり、N先生は手際がいいので、限られた時間内で非常に効率的で有意義な訓練をしていただけます。
できるだけ、たくさんのO/TさんにN先生のような技術と知識と熱意を持ってもらいたいと熱望します。
さて、今日は、パソコンの新しい入力デバイスを持ってこられて、満理子の今の能力に適するかの確認をされました。
ひとつは、ビクター・インターネット・ハンディ・マウスというもので、手で握った状態で、親指でジョイスティックを使ってカーソルを移動させます。 握りながら操作するのは満理子にはちょと難しかったです。
但し、パソコンから離れて片手だけで、手元操作できるので、将来的には車椅子やベッド上でテーブル無しで、インターネットを楽しめるかもしれません。
ビクター・インターネット・ハンディ・マウス (青い部分がジョイスティックになっていて親指で操作する。その下が左右クリック。) |
もうひとつは、スライドポインタというものです。 真中のボタンが、上下左右にすべるように動きます。 その動きにしたがってカーソルが移動します。 力は全く要らないため筋力の無い人向けでしょう。
クリックは、先生の指に巻いている帯にタッチスイッチがついていて、触るだけでクリック操作ができます。
力は要らないけど、微妙な操作感覚が必要です。 満理子は手の動きが稚拙なため、思った様には操作ができませんでした。
しかし、いろんな装置があるものです。 これからも、可能性に向けてチャレンジしていきたいです。
皆さんにメールを出せるのはいつの日か・・・
Tsukenのスライドポインタ (青い部分が前後左右にスライドしてカーソルを移動させる。 指に巻いているのがクリック。どちらもさわるだけ)) |
今更、素人の私が、リハビリテーションの意義を言うまでもないと思いますが、
満理子が発病以来続けてきたリハビリ、病院や身近な人の話を聞いて感じた事を書いてみます。
リハビリの定義は、「全人的復権」として、WHOや世界リハビリ会議の中で細かく唱われています。
「全人的復権」とは人間が生きていく上で、当然の権利を取り戻すことだということです。
そこで、その当然の権利とはどいうことかを考えてみました。
知っている限りの身近なリハビリ訓練を見てきて思ったのですが、まず、病気や怪我の物理的治療が終わった後、早い時機に元の生活に戻るための機能回復訓練が理学・作業療法士の手で行なわれます。
失われてしまった機能は、それを補うための訓練をします。
症状が軽い場合は、3ヶ月から半年で効果が現れ、元の生活、又は、それに近い生活に戻れる場合が多いですが、ある程度の期間の訓練であまり効果が無い場合は、症状が固定したと判断され、見放された状態になってしまうケースが多いです。
その後、長期的なリハビリは続けられるものの、現存機能の維持、又は、寝たきりになってしまった場合は、介護をし易いように、関節などの可動部位の維持くらいにとどまっているケースが多いと思います。
また、それとは逆に、持続的に積極的に回復訓練をしている場合も有ります。
あまり、回復が期待できないにもかかわらず、苦痛を伴う訓練を、本人の意思を無視し、自立をめざして、なかば強制的にやっている場面も見たことが有ります。
さて、満理子の場合、入院中、手術後すぐに、P/Tさんにリハビリを受けました。
脳梗塞を併発し、左半身は使えなくなっていましたので、主に右手・足の回復と左半身の拘縮防止になります。
訓練は毎日行なわれ、右手の動きも徐々に良くなってきましたが、なかなか自分の意志で動こうとしません。
条件反射的に、物をつかんだり、動いているものを追っかけていくような動きです。
手以外はほとんど動きませんでした。 動かし方を忘れてしまったと本人は言っていました。
毎日、熱心に訓練をしていただいていたおかげで、数少ない可動部は比較的スムーズに動いていました。
ただ、意識レベルが低く、なかなか意識的な動きはできていませんでした。
発病後2年半で退院(平成9年4月)となりましたが、意識レベルはまだ低く、自分からしゃべったり、要求することはできません。
リハビリは、週1回になり、通院で訓練を受けていましたが、半年ほどで、担当の先生も転院され、他の先生も辞めたりして、月に一回の訓練となってしまいました。
その間に、肘が固まってしまい、今では、拘縮がひどく、ほとんど動かなくなってしまいました。
その後、介護保険が施行され、訪問リハビリが始まり、N先生に来ていただくようになって、リハビリ日記に書かれているような経過になっています。
なぜ、このような事を書こうと思ったか、最近、リハビリについて考えるようになったからです。
今までは、望みが無いにもかかわらず、社会復帰を目指すリハビリ訓練を期待していて、少々つらい苦痛を伴うこともやむを得ないと思っていました。
リハビリの大きな目的の一つである自立を目指すということです。
しかし、現実は運動機能は今より著しくよくなることは、まず無いと思われます。
だったら、なぜ、リハビリをお願いしているかというと、まず現存機能の維持はもちろんですが、寝たきりでも、何とか満理子に楽しみを見出してもらいたいからです。
テレビを見たり、音楽を聴いたりすることはできますが、積極的な楽しみ方では有りません。
自分の意志で、現存機能を生かして、楽しんで欲しい。
それができるようなリハビリをして欲しいと思うようになってきたのです。
寝たきりでも退屈しない、自分で何か楽しみを得るというのが満理子にとっての「全人的復権」ではないかと思うようになりました。
そこで、具体的に何が満理子にとって、楽しみかと考えると、まず、食事です。
食べるのが好きな満理子ですが、手を思うように動かせないので、自分でおかずを選んで好きなものを食べることができません。
私が、食事時間短縮のために一方的に選び食べさせています。
うまく、道具を使って、食べられるようになったら、きっと幸せを感じるだろうと思います。
そして、おしゃべりが大好きです。 でも、家には話し相手が居ません。
そこで、自分で電話ができるようになればいいなあと思います。
また、パソコンを使えるようになれば、メールでコミュニケーションをとることもできるし、インターネットで好きなサイトを探して情報を得たり、果てはゲームを楽しんだり、積極的にネットに参加することができるかもしれません。
そして、訓練を通して、新たな楽しみや趣味がこれから見つかるかも判りません。
ということで、リハビリ訓練に望むことは、
1.現存機能を少しでも伸ばす。
2.できるだけ苦痛を伴わずに楽しみながら興味の持てる訓練。
3.現存機能を生かして、今の条件で楽しみを得られる訓練。
このうち、もっとも3に重点を置いて欲しいのです。
すなわち、満理子の残された生涯を、できるだけ楽しみの多いものになるようなリハビリを期待しているのです。
** N先生からの返事 **